『罪人』という言葉を聞いた穂香は、頭が真っ白になった。「え?」「これからお話しすることは、決してあなたの責任ではありません」「う、うん?」レンの顔は見えないが、穂香の耳元で囁かれる言葉はどこか不安そうだ。「どこから説明したものか……。人類滅亡のきっかけをつくったあなたの夫は、多くの功績を残して科学者となりました。その影響なのか、子孫たちもまた科学者になることが多く、優秀な科学者を輩出していくことになります」「科学者? レンと一緒だね」レンは静かにうなずいたあとで、話を続けた。「そう、一緒なのです。あなたの夫の姓は、高橋。数百年後の未来でも、高橋一族は優秀でありつづけ、有名な科学者一族になっています」「……ん? 高橋って……。たしか、レンの名字も……」「そうです。私は、数百年後の未来から来た、あなたの遠い遠い子孫にあたります」「え?」「以前に私が未来から監視を受けているとお話ししましたね?」「う、うん」レンは未来から監視されていて、穴織からお守りを貰うまで、発言や行動を制限されていた。穂香は、『監視だなんて、未来ってけっこう物騒だね』とレンに言ったことがある。「私の時代の高橋一族は、人類滅亡のきっかけをつくってしまった罪人として常に監視されています。そして、人類滅亡を防ぐための研究を強制的にさせられているのです」「そんな……。だとしたら、私のせいで、レンが……」穂香を抱きしめるレンの腕に、力が込められる。「あなたのせいではありません」「で、でも!? 私のせいで、レンは今ここにいるんだよね? やりたくもない恋愛ゲームのサポートを延々とさせられて! 私がうまくできなかったから、何回も何回もやり直して……」『お前のせいで、こんな目に遭っているんだ』と、恨まれていても仕方ないと穂香は思った。それなのに、レンはいつでも穂香に優しくしてくれる。「大丈夫です。大丈夫ですから」まるで子どもをあやすように、レンは穂香の背中をポンポンと優しく叩いた。「レンは、今まで、どんな気持ちで……私の側に? 私のこと、憎くないの?」穂香の耳元で、レンがクスッと笑う。「本当のことを言いますが、どうしようもないことと分かっていても、初めは少しだけ、あなたのことを恨んでいました」「やっぱり……」「でもね、一緒に行動していたら、すぐにそんな気持ちはなく
「失礼します」穂香が職員室に入ったとたん、真っ青な髪が穂香の目に映った。(とりあえず、松凪先生に相談しよう)穂香の頭の中では、昨晩、レンから聞いた言葉がずっとぐるぐる回っている。――あなたが幸せにするパートナーを1人だけに絞らず、ものすごく優秀で、多方面に影響力がありそうな穴織くん、生徒会長、先生の三人を、同時にできる限り幸せにしたら、すごいことが起こりそうじゃないですか?(だったら、私は勝手に先生と生徒会長と穴織くんを【レンを最高に幸せにするためのパートナー】に決める! 私のパートナーになったんだから、三人とも多少は幸せになるはず。幸せになれたら、協力してくれるよね?)穂香は、青い髪を目指して職員室の中を歩いた。「先生、おはようございます」「お、白川か。おはよう。朝からどうした?」机に座っている先生は、いつものダルそうな雰囲気で、忙しくはなさそうだ。(昨日の話し合いのときは、別人のようにキリッとしていたのに)レンに深い事情があるように、先生にもいろいろ事情があるのかもしれない。「先生、相談があるのでのってもらえませんか? 今すぐ!」「今すぐ!?」時計を見た先生が「まぁ、15分くらいならいいぞ」と立ち上がると風景が変わった。【同日 朝/生徒指導室】(職員室から、昨日来た場所に飛ばされてる)先生は、「時間が少ないから早く座れ」と穂香を急かす。向かい合って座ると、「で? 何を相談したいんだ?」とさっそく本題に入った。(レンは、確か私達は、同じ一族で、生まれた時代が違うから一緒にいられないと言っていたよね?)穂香は、青い瞳をまっすぐ見つめる。「先生、同じ一族っで、どれくらい離れていたら結婚できますか?」「それって親戚関係とか、そういう話か? だったら、この世界の日本では、3親等離れていたら問題ないぞ」「3親等って?」「いとこなら結婚できるってことだ」「ということは、何百年あとに生まれた人と恋愛や結婚しても何も問題ないですよね?」「どういう設定の話か、まったく分からんが……。そうだな、3親等以上離れているから法律的にも医学的にも問題ない」(ということは、同じ一族なのは問題じゃないんだ。じゃあ、時代が違うからが、一番の問題だよね?)確かに、現代人と未来人が一緒になるのは難しそうだ。(でも、私が【パートナーを最高に幸せに
ベッドの中で心地好い眠りについていた穂香(ほのか)は、聞きなれた電子音で目が覚めた。朝6時にセットしていたスマートフォンのアラームが鳴っている。(学校に行きたくない……)そんなことを思いながら、枕元に置いていたスマホを手探りで探す。高校二年生になったばかりの穂香は、一年生のときに仲が良かった友達全員とクラスが離れてしまった。別にイジメにあっているわけではない。だけど、仲がいい友達がクラスにいないことがつらい。「はぁ……」穂香のため息は、鳴り続ける電子音にかき消された。アラームを止めたいけど、スマホが見つからない。「あれ?」スマホを探すために、穂香はベッドから起き上がった。すると、部屋の隅にメガネをかけた見知らぬ男子高校生が佇んでいることに気がつく。(あっ、これは夢だ)普通なら悲鳴を上げるところだけど、男子高校生の髪と瞳が鮮やかな緑色だったので、穂香はすぐに夢だと気がついた。穂香を見つめる男子高校生は顔がとても整っていて、まるでマンガやゲームのキャラクターのように見える。「起きましたね。アラームは消しますよ」そんなことを言いながら男子高校生は、穂香のスマホのアラームを慣れた手つきで止めた。「穂香さん、おはようございます」「え? どうして、私の名前を?」と、言いつつ『そういえば、これは夢だった』と思い出す。夢なら知らない人が穂香の名前を知っていても不思議ではない。「えっと……どちらさまですか?」おそるおそる尋ねると、男子高校生はニッコリ微笑んだ。「嫌だなぁ、寝ぼけているんですか? 私はあなたの幼なじみのレンですよ。毎朝、穂香さんを起こしに来ているでしょう?」「幼なじみ? レン?」穂香には、レンという名前の知り合いはいなかった。そもそも幼なじみと呼べるような関係の人すらいない。(なるほど、これはそういう設定の夢なのね。夢だったら、いないはずの幼なじみがいても問題ないか)穂香は、初対面の幼なじみに遠慮がちに話しかけた。「えっと……。とりあえず、あなたのことは、レンさんって呼んだらいいですか?」「レンさんだなんて! いつも私のことはレンと呼んでいるじゃないですか」「あっ、そうなんですね」「穂香さん。いつものようにもっと気軽に話してください」(そんなことを言われても……)穂香はその『いつも』を知らない。「でも、レン
そこには誰もいないのに、確かに母の声がする。「穂香(ほのか)。早く朝ご飯、食べちゃって」扉が閉まると、母の声は聞こえなくなった。穂香には、何が起こっているのか理解できない。「……え? 今の、何?」呆然としている穂香に、レンは「あなたのお母さんが来たんですよ」と伝える。「でも、お母さん、いなかったよ⁉ 声はしたけど、いなかった!」そんなことあるはずないのに、そうとしか言えない。レンは「ああ」と言いながら小さく頷いた。「おばさんは、メインキャラではなくモブキャラですからね。立ち絵がないんですよ」「モブキャラ!? 立ち絵? 何を言ってるの?」動揺する穂香を、レンは不思議そうに見つめている。「モブキャラは、重要じゃない登場人物のことです。ほら、マンガやゲームでは通行人に顔が描かれていないことがあるでしょう?」「それとお母さんの姿が見えないことになんの関係が……って、あっ! これは夢だった」穂香は、ホッと胸をなでおろした。レンは、そんな穂香の肩にそっと手をおく。「夢ではありませんよ。これは現実です」「は?」穂香に向けられた緑色の瞳は、どこまでも真剣でふざけているようには見えない。「初めまして。恋愛ゲームの世界に閉じ込められてしまった主人公の白川穂香さん。私はあなたの幼なじみ兼お助けキャラ役の高橋レンです。この世界から脱出するために、協力しましょう」「……」穂香には、レンが何を言っているのかさっぱり分からなかった。ニッコリと微笑むレンを無視して、穂香はこのおかしな夢から覚めるためにもう一度ベッドにもぐりこむ。すぐに眠りへと落ちていく。まどろみの中で、聞きなれた電子音が聞こえた。「……変な夢、見た……」穂香がベッドから起き上がると、ベッドの側に立っている緑髪の男子高校生が、慣れた手つきで穂香のスマホを操作してアラームを止める。そして、さっき聞いた言葉を繰り返した。「初めまして。恋愛ゲームの世界に閉じ込められてしまった主人公の白川穂香さん。私はあなたの幼なじみ兼お助けキャラ役の高橋レンです。この世界から脱出するために、協力しましょう」「いやいやいや! 私に幼なじみはいませんからっ! どうして夢から覚めないの!?」レンはあきれたようにため息をつく。「穂香さん、主人公が『起きない』という選択肢は、この世界には設定されていない
確かに穂香(ほのか)は、ベッドから下りた。それなのに、いつの間にか、通学路を歩いている。「えっ!?」それはまるで、家からここまで瞬間移動でもしたようだった。しかも、穂香はいつも着ている制服ではない別の制服を着ていた。その制服は、隣を歩くレンとよく似たデザインで、レンのズボンと穂香のスカートは同じチェック柄だ。二人で並んで歩いていると、こういう制服の高校に通っている生徒に見える。しかし、穂香が通っている学校は、こんな制服ではない。不思議なことに穂香には、朝ご飯を食べた記憶も、着替えた記憶も、ここまで歩いてきた記憶もあった。「ど、どういうこと!?」レンは「日常パートをダラダラと流したら、ゲームプレイヤーが飽きてしまうので自動でカットされる仕様になっています」とニコニコ笑顔で教えてくれる。「自動カット!?」「重要な場面では、選択肢も出てきますよ。こんな風に」レンの言葉で、穂香の目の前に透明なパネルが二枚浮かび上がった。パネルにはそれぞれ【はい】と【いいえ】が書かれている。「本当にゲームの世界みたい……」「みたいではなく、ここはゲームの世界なんですよ」穂香が「恋愛ゲーム、だったっけ?」と確認すると、レンはコクリと頷いた。「穂香さんは、恋愛ゲームはご存じですか? 乙女ゲームとも呼ばれることがありますが」「それって、いろんなイケメンと恋愛を楽しむゲームだよね? くわしくないけど、広告で見たことはある」「そうそう、それです。あなたは、そのイケメン達を攻略して恋愛を楽しむゲームの中に、閉じ込められています」レンは、不安そうな表情を浮かべながら「ここまでは、大丈夫ですか?」と穂香に尋ねた。「う、うん。ようするに、この夢では、私は恋愛ゲームの世界に紛れ込んでしまっていて、ここから脱出するためにレンと協力しないとダメってことだよね?」「夢ではないんですけど……。まぁ、もう夢でいいか」レンは、キリッとした表情をこちらに向ける。「そうなのです。この恋愛ゲームの世界から脱出するために、これから一緒に頑張りましょう!」「何を頑張ればいいのか分からないけど……もし、脱出できなかったら私はどうなるの? まさか、死んでしまう、とか?」「いいえ。脱出できるまでやり直しをさせられるだけです。ついさっき、私があなたのスマホのアラームを止めるシーンを二回繰り返し
この世界から脱出できなければ、同じ日を繰り返す。(ゲームなら問題ないけど、それが現実に起こったらおかしくなってしまいそう……)この世界は夢だと分かっていても、目が覚めるまで穂香はここにいないといけない。(だったら、レンと協力したほうがいい)穂香(ほのか)は隣を歩くレンを見上げた。「これから何をすればいいの?」「この恋愛ゲームの世界から脱出する方法は、たったひとつです」レンは人差し指をたてる。「主人公である穂香さんが、イケメンから告白されること」「……えっと、ふざけてる?」戸惑う穂香に、レンは「まさか!」と大げさに驚いて見せた。「穂香さん、よく考えてみてください。この世界は恋愛ゲームなんですよ? 恋愛ゲームは何をするゲームですか?」「それは……恋愛だね」「そうです。だから、この世界はイケメンと恋愛するための場所なんですよ。イケメンと無事に恋人関係になったらゲームクリアです」「もしかして、ゲームをクリアしたら、この世界から脱出できるってこと?」「そうです!」ニコニコ笑顔のレンを見て、穂香は申し訳ない気持ちになった。「脱出方法は分かったけど、私には無理そう」「どうしてですか?」どうしてと言われても、穂香はこれまで告白したこともなければ、されたこともない。もちろん、付き合ったこともない。「だって私、美人じゃないし……」「恋愛ゲームの主人公が美人とは限りませんよ」「そうかもしれないけど……」今の穂香は恋人より、クラスに仲のいい友達がほしかった。友達がいなくて困っているのに、恋人のことなんて考えられない。穂香が黙り込んでいると、レンは穂香が不安になっていると思ったようだ。「大丈夫ですよ! あなたには、幼なじみ兼お助けキャラの私がついているのでご安心ください」レンは、自信たっぷりに右手を自分の胸に当てる。「あなたがイケメンから告白されるように、私が全力でサポートします」そういうレンの顔は、ものすごく整っている。(自分もイケメンなのに……)穂香はいいことを思いついた。「私じゃなくてレンが可愛い女の子に告白されるのを目指したほうがいいんじゃない? そのほうが早いと思う」穂香はとてもいいアイディアだと思ったのに、レンに「そういうゲームではないので」ときっぱり断られてしまう。「この世界の主人公は、穂香さん。あなたなのです
慌てる穂香を無視して、レンは「右手をご覧ください」と、まるでバスガイドさんのように案内を始めた。レンの言葉と同時に、通学路を歩いていたはずなのに、風景が見慣れた学校前に切り替わる。「また急に場面が!?」と驚く穂香に、レンは「そういう仕様です。慣れてください」と淡々と返した。学校は、穂香が通っている学校だった。「制服が違うから、てっきり別の学校に通うのかと思っていたけど、さすがは夢。そこらへんは適当なんだね」穂香の独り言を聞いたレンは「まぁ、そういうことにしておいてください」と笑っている。学校前は、ざわざわして大勢の人がいそうな気配がするのに、穂香の目には一人の金髪男子しか見えない。「留学生?」「いいえ、あれは生徒会長ですね」レンの言葉に、穂香は首をかしげた。「でも、この学校の生徒会長は、黒髪の日本人だよ? 何回か遠目で見たことあるから」「ああ、それについては、恋愛相手が一目で分かるように、髪の色と目の色が変わっています。ゲームのキャラクターっぽいでしょう? 生徒会長は金髪金目ですね」「それは確かにキャラクターっぽい……って、生徒会長が恋愛する相手なの!?」レンは「はい、そうです。彼、イケメンでしょう?」とニコニコしている。「確かにイケメンだけど……。生徒会長って私より先輩だし、そもそも一度も話したことないよ!?」「まぁまぁ、とりあえず近づいてみましょう、ね?」穂香は、レンに背中を押されて無理やり生徒会長の側に連れて行かれた。すると、姿はないのに複数の女子生徒の声が聞こえてくる。「生徒会長、おはようございますぅ!」「きゃー! 今日もカッコいいー!」「こっち向いてー!」穂香の目には、生徒会長が一人で困った顔をしながらフラフラしているようにしか見えない。穂香は、小声でレンに尋ねた。「生徒会長、一人で何しているの?」「どうやら女子生徒に囲まれて前に進めないようですね」「女子生徒なんてどこにもいないけど!?」レンは「ですから、モブキャラに立ち絵はないんですって」と教えてくれる。「あっそうか、私のお母さんも見えなかったもんね……変な世界」「受け入れてください」「うん、まぁもう受け入れつつあるよ。それで、こんな大人気な生徒会長に、何をどうしたら私が告白されるわけ? そんなの絶対に無理……」レンは「まぁまぁ、そう悲観せず。他
校内にチャイムが鳴り響くと、また風景が切り替わった。いつの間にか日が暮れて、教室がオレンジ色に染まっている。放課後の教室で、穂香はレンと二人きりになっていた。「本当に変な世界だね。朝の教室から放課後まで時間が飛んだのに、授業を受けた記憶があるし、授業内容も覚えているなんて……」ため息をつく穂香に、レンは微笑みかける。「そのうち慣れますよ。で、誰と恋愛するか決めましたか?」「いや、普通に考えて全員無理でしょ」「やる前からそんなことを言ってはいけません。決めないという選択肢はないんですからね?」口調は穏やかだが、レンから『早く決めろ』という強めの圧を感じる。「でも……」「私がサポートしますから」「いや、だって……」穂香はレンに両肩をつかまれた。レンの口元は笑っているが、瞳は少しも笑っていない。「穂香さん、これからずっとこの世界を彷徨い続けるつもりですか? 何回も何回も何回も同じ朝を繰り返し続けると?」「ご、ごめんなさい!」つい謝ってしまうくらいの迫力がレンにはあった。あまりに必死なレンを見て、穂香はふと気がつく。「あっもしかして、レンも私と一緒で、この世界に閉じ込められている、とか?」「まぁ、そのような感じです」「そうだったんだ。だから、ずっと『協力して脱出しましょう』って言ってたんだね」どうしてレンが協力してくれるのか?どうしてそんなに必死なのか?その理由が穂香は、やっと分かった。(ずっとこんなおかしな世界にいるなんて嫌だよね。自分のためにも、レンのためにも誰かと恋愛しないと……)穂香は、おそるおそる尋ねる。「念のために確認するけど、恋愛するのは一人だけでいいんだよね?」レンは「当たり前です」と眉間にシワを寄せる。「良かった……全員と恋愛しないとダメとかじゃなくて」「ご安心ください。誰か一人から告白されると、この世界から脱出できます。失敗しても一日目の朝に戻されるだけなので、告白されるまで何回でもチャレンジできますよ」「そっか、分かった。じゃあ、いきなり恋愛相手を決めるのは無理だから、皆と少しずつ仲良くなれるように努力するのはどう?」レンは「ふむ」と言いながら考えるような仕草をする。「なるほど。まずはお友達からということですね?」「そうそう、だって私、さっき紹介された3人の誰とも、お友達ですらないからね?
「失礼します」穂香が職員室に入ったとたん、真っ青な髪が穂香の目に映った。(とりあえず、松凪先生に相談しよう)穂香の頭の中では、昨晩、レンから聞いた言葉がずっとぐるぐる回っている。――あなたが幸せにするパートナーを1人だけに絞らず、ものすごく優秀で、多方面に影響力がありそうな穴織くん、生徒会長、先生の三人を、同時にできる限り幸せにしたら、すごいことが起こりそうじゃないですか?(だったら、私は勝手に先生と生徒会長と穴織くんを【レンを最高に幸せにするためのパートナー】に決める! 私のパートナーになったんだから、三人とも多少は幸せになるはず。幸せになれたら、協力してくれるよね?)穂香は、青い髪を目指して職員室の中を歩いた。「先生、おはようございます」「お、白川か。おはよう。朝からどうした?」机に座っている先生は、いつものダルそうな雰囲気で、忙しくはなさそうだ。(昨日の話し合いのときは、別人のようにキリッとしていたのに)レンに深い事情があるように、先生にもいろいろ事情があるのかもしれない。「先生、相談があるのでのってもらえませんか? 今すぐ!」「今すぐ!?」時計を見た先生が「まぁ、15分くらいならいいぞ」と立ち上がると風景が変わった。【同日 朝/生徒指導室】(職員室から、昨日来た場所に飛ばされてる)先生は、「時間が少ないから早く座れ」と穂香を急かす。向かい合って座ると、「で? 何を相談したいんだ?」とさっそく本題に入った。(レンは、確か私達は、同じ一族で、生まれた時代が違うから一緒にいられないと言っていたよね?)穂香は、青い瞳をまっすぐ見つめる。「先生、同じ一族っで、どれくらい離れていたら結婚できますか?」「それって親戚関係とか、そういう話か? だったら、この世界の日本では、3親等離れていたら問題ないぞ」「3親等って?」「いとこなら結婚できるってことだ」「ということは、何百年あとに生まれた人と恋愛や結婚しても何も問題ないですよね?」「どういう設定の話か、まったく分からんが……。そうだな、3親等以上離れているから法律的にも医学的にも問題ない」(ということは、同じ一族なのは問題じゃないんだ。じゃあ、時代が違うからが、一番の問題だよね?)確かに、現代人と未来人が一緒になるのは難しそうだ。(でも、私が【パートナーを最高に幸せに
『罪人』という言葉を聞いた穂香は、頭が真っ白になった。「え?」「これからお話しすることは、決してあなたの責任ではありません」「う、うん?」レンの顔は見えないが、穂香の耳元で囁かれる言葉はどこか不安そうだ。「どこから説明したものか……。人類滅亡のきっかけをつくったあなたの夫は、多くの功績を残して科学者となりました。その影響なのか、子孫たちもまた科学者になることが多く、優秀な科学者を輩出していくことになります」「科学者? レンと一緒だね」レンは静かにうなずいたあとで、話を続けた。「そう、一緒なのです。あなたの夫の姓は、高橋。数百年後の未来でも、高橋一族は優秀でありつづけ、有名な科学者一族になっています」「……ん? 高橋って……。たしか、レンの名字も……」「そうです。私は、数百年後の未来から来た、あなたの遠い遠い子孫にあたります」「え?」「以前に私が未来から監視を受けているとお話ししましたね?」「う、うん」レンは未来から監視されていて、穴織からお守りを貰うまで、発言や行動を制限されていた。穂香は、『監視だなんて、未来ってけっこう物騒だね』とレンに言ったことがある。「私の時代の高橋一族は、人類滅亡のきっかけをつくってしまった罪人として常に監視されています。そして、人類滅亡を防ぐための研究を強制的にさせられているのです」「そんな……。だとしたら、私のせいで、レンが……」穂香を抱きしめるレンの腕に、力が込められる。「あなたのせいではありません」「で、でも!? 私のせいで、レンは今ここにいるんだよね? やりたくもない恋愛ゲームのサポートを延々とさせられて! 私がうまくできなかったから、何回も何回もやり直して……」『お前のせいで、こんな目に遭っているんだ』と、恨まれていても仕方ないと穂香は思った。それなのに、レンはいつでも穂香に優しくしてくれる。「大丈夫です。大丈夫ですから」まるで子どもをあやすように、レンは穂香の背中をポンポンと優しく叩いた。「レンは、今まで、どんな気持ちで……私の側に? 私のこと、憎くないの?」穂香の耳元で、レンがクスッと笑う。「本当のことを言いますが、どうしようもないことと分かっていても、初めは少しだけ、あなたのことを恨んでいました」「やっぱり……」「でもね、一緒に行動していたら、すぐにそんな気持ちはなく
レンの言葉が理解できず、穂香は首をかしげた。「正解って、皆と友達になればいいってこと?」「そうです。穂香さんの才能について、私が話したことを覚えていますか?」「えっと…」穂香はレンの言葉を思い出す。「確か、レンがいる未来では、すべての人に必ず突出した才能や、神がかり的な能力があることが証明されていて、私の才能は【私が選んだパートナーを、最高に幸せにできる】だったよね?」「そうです。ですから、未来では、人類を滅亡させない相手と穂香さんをくっつけようとしていました」「じゃあ、友達じゃダメなんじゃない?」「2%」「え?」緑色の瞳は、どこまでも真剣だ。「人類滅亡の原因を作ってしまう穂香さんを、未来人達が消すことができなかったのは、あなたがいなくなるとこの世界の幸福度が2%も下がるからです」「あー……。そういえば、そんなことも言ってたね。よく分からないけど」「これは、言い換えると、あなたと関わるすべての人は、大なり小なり幸福を感じているということになります」「は? それはさすがに嘘だよ。だって、私、今のクラスに友達がいなくて困ってるのに……」穂香としては、自分と一緒にいて幸福を感じられるのなら、友達がたくさんいないとおかしい。「穂香さんの才能は他人を幸せにすることなので、自分が幸せになるには自分で頑張るしかありません」「な、なんて使えない才能なの⁉」「そうでもないですよ」レンは、指でメガネを押し上げた。「私は今まで、恋愛のサポートをしようとしていたので、穂香さんが恋愛候補と交流するとき、私はその場にいませんでした」「どうして?」「どうしてって……。異性の幼なじみとべったり一緒にいる女性を、恋愛対象に見るのは難しくないですか?」「それは、そうだね」レンなりに、穂香の恋愛が成功するように、気を使っていてくれたようだ。「しかし、今回は私が穂香さんの恋愛相手なので、ずっとあなたの側にいました。そして、つい先ほど気がついたのです」「何を?」「あなたが、どのようにして、他人を幸せにしているのかを」穂香はゴクリとつばを飲み込む。「まだ仮定の段階ですが、おそらくあなたは【相手の人生を良い方向に進ませる言葉】を発しています」「そんなこと言ってないよ?」「もちろん、あなたは無意識です」レンは、穴織にイケメンと教えたことや、先生に『
これで、穂香の恋愛候補だった三人の正体が分かった。(たぶん、この学校の怪異を解決するために、穴織くんに依頼したのも、生徒会長の叔父さんだよね?)恋愛候補達は、まったく関係がないように見えて、水面下では複雑に繋がっている。(そんな偶然ある?)穂香がレンをチラッと見ると、レンも何か気になったのか考え込んでいるようだった。静かになってしまった二人に、先生が声をかける。「どうだ? 俺のことを信用できそうか?」「あ、はい」と、穂香はうなずく。(先生は恋愛候補だから、悪い人ではないって分かっていたけど、ここまで話してくれたらさすがに信用できる)穂香が「実は……」と話そうとすると、レンがさえぎった。「私が説明します」レンは、穂香が【恋愛ゲームの世界に閉じ込められている】こと、そして、【恋愛相手に決められた人から告白されないと、その世界から脱出できないこと】、【条件をクリアできるまで、何度もやり直しをさせられていること】を説明した。(このままじゃ人類が滅亡してしまうことは、先生に言わないのかな? レンに何か考えがあるのかも?)穂香が黙っていると、レンの説明を聞き終わった先生は、「なるほどな」と腕を組む。「ようするに、空間が切り取られてしまっている状態で、俺達がその中に閉じ込められているんだな。その影響で、白川は見えないものが見えていると」「まぁ、正確には違うのですが、そのように理解していただいて大丈夫です」「俺にできることは?」「もし、穂香さんが危険な目に遭ったら助けてほしいです」「分かった。あとは、おまえ達の恋愛を見守っておけばいいんだな」レンの顔がカァと赤くなる。「違ったか? 高橋が白川の恋愛相手なんだろう?」「そ、そうですが……」「なら、おまえが白川に告白したら解決か。この様子だと、けっこう早く解決しそうだな」先生は笑いながら、腕時計を見た。「今日はこれで解散だ。俺に相談したいことがあったら、いつでも頼ってくれ」穂香とレンが席を立つと、風景が変わった。【同日 夜/自室】(学校から、家に帰ってきてる)穂香の向かいにはレンが座っていた。「ねぇ、レン。どうして先生に、このままだったら人類が滅亡することを言わなかったの?」レンはメガネを指で押し上げた。「穂香さんは、私達未来人がどうして恋愛ゲームの世界を作るなんて、遠回りな
【同日 放課後/教室】(もう放課後になってる……)クラスメイトは帰宅したようで、教室には穂香とレンしかいない。穂香はため息をついた。「結局、穴織くんに会えなかったね。もう、先生のところに行くしかないか」覚悟を決めた穂香は、職員室へと向かった。そのあとをレンがついてくる。「私も一緒に行きます」「えっ、ありがとう、嬉しい!」そんな会話をしていると、バッタリと松凪先生に出会った。「おっ、いたいた。高橋も一緒か。ちょうど良かった。生徒指導室に行くぞ」【同日 放課後/生徒指導室】穂香が「私、生徒指導室なんて初めて入った」とつぶやくと、レンが「私も、生徒指導室に連れていかれるあなたを見るのは初めてですよ」と教えてくれる。(ということは、レンから見れば、本当に今回は今までにないことばかり起こってるんだね。大丈夫かな……)生徒指導室の中には、教室に置かれているものと同じ机と椅子が並んでいた。先生は、それを三つくっつけてから「とりあえず座れ」と言う。穂香とレンが並んで座ると、先生は向かいの席に腰を下ろした。「まず初めに言っておくが、俺はおまえたちの敵じゃない」「は、はい?」驚く穂香に、レンは「とりあえず、彼の話を聞きましょう」と耳打ちする。(そういえば、レンからの情報によると、先生って確か『世界で一番強い人間』だったよね?)穴織や生徒会長とはまったく違う情報だったので、違和感があった。(先生って何者?)先生の声は、とても落ち着いている。「おまえたちが、何に巻き込まれているか俺には分からない。……まぁ、主に巻き込まれているのは白川だろうなということは分かるがな。相談しろと言われても、俺のことを信頼できないだろうから、まずは俺の素性から話そう」一呼吸おいた先生は、まっすぐ穂香を見つめた。その表情にはいつものダルさがない。「俺は、別の世界で魔王を倒した元勇者だ」ポカンと穂香が口を開けると、先生はウンウンとうなずいた。「白川が、そんな顔になる気持ちも分かる。俺も、この年で『元勇者』とか自分で言ってて、ものすごく恥ずかしい。だが、事実だから仕方ない」レンが「ということは、先生は別の世界から来た人ということですか?」と質問すると、先生は首を左右にふった。「いや、そうではなく、高校生のときに異世界に召喚されたんだ」「そこで、勇者として魔王を倒
「ええっ⁉」穂香が叫んだ瞬間、風景が変わる。【同日 昼/教室】(朝の校門から、お昼休みまで飛ばされてる)隣の席のレンが、「さっきのは、どういうことですか?」と深刻な顔をした。「それが……。校門がバラで飾られていたから、文化祭用の飾りだと思いこんじゃって。まさか、他の人には見えてないなんて思わなかった」「なるほど。そういうことなら、仕方ないですね。あなたが、急に先生に話しかけに行ったので驚きました」バラが見えていないレンからすれば、穂香の行動はおかしく見えただろう。「驚かせてごめんね。ねぇ、レンには見えていないってことは、穴織くんの専門だよね? 放課後、先生に会う前に、穴織くんに相談したほうがいいかな?」「そうですね……」穂香が教室を見回しても、穴織の姿はない。「そういえば、穴織くん。朝から見てないね。今日はお休みかな?」「どうでしょうか……」いつもより、レンの反応が薄い。「どうしたの? 大丈夫?」「私は大丈夫ですよ」「でも、何か悩んでいるように見える」レンは、ため息をついた。「違いますよ。ただ、今回は私があなたの恋愛候補なのに、次から次に穂香さんの別の恋愛相手候補が関わってくるのはなぜだろうか、と思いまして」「それって、おかしいことなの?」「それが、今まで穂香さんと私で恋愛しようとしたことがないので分からないのです。でも、引っかかりますね。いい気分ではありません」そう言うレンの顔は険しい。「もしかして、レン、怒ってる?」ハッとなったレンは「別に、嫉妬ではないですからね!?」と頬を赤く染めた。「大丈夫、分かってるよ。レンは、研究のために私の側にいてくれているんだよね」緑色の瞳が大きく見開く。「それ、本気で言ってます?」「え、うん」「自分で言うのもなんですが、こんなに分かりやすい態度を取っているのに?」きょとんとしている穂香を見て、レンは盛大なため息をついた。「あなたが、これまで何度も何度も恋愛に失敗してきた原因が、たった今、分かりましたよ」「え? 何?」「ものすごく鈍いからですよ!」「やっぱり怒ってる!」「怒ってないです。あきれてはいますが」メガネを外したレンは、頭が痛そうに目頭を押さえた。メガネを外したレンを見たのは、夢の中だけなので新鮮に感じる。「レンって、メガネかけててもイケメンだけど、外
レンが部屋から出ていくと、風景が変わる。【10月12日(火) 朝/通学路】(次の日になったから、また学校に向かっているんだね)制服を着た穂香とレンは、通学路を並んで歩いていた。(昨日、あんなことがあったから、気まずいんだけど……)沈黙が重苦しい。穂香が、チラッとレンを見ると、いつもと変わらないように見えた。(そっか。私はレンが好きだけど、レンからしたら、キスもただの研究だもんね)そう思うと、少しだけ胸が痛いような気がする。(私も、もう気にするのはやめよう)穂香がフゥと息を吐くと、レンが「昨日の件ですが」と話し出した。「昨日……」キスしたことを思い出して、真っ赤になった穂香につられるように、レンも赤くなる。「そっちではなく、未来の監視の話です」「あ、ああ、それね。原因が分かったの?」レンは、制服のネクタイを少しゆるめると、首から下げていたお守りを取り出した。それは、昨日穴織からもらったもので、穂香も念のため身につけている。「そのお守りが原因なの?」穂香の問いに、レンは首をふった。「お守りというよりは、正確には穴織くんの能力のおかげですね。昨日、彼が穂香さんの家に結界を張ってくれたでしょう?」「じゃあ結界が化け物だけじゃなくて、未来からの監視も防いでくれてるってこと?」「おそらく」とレンはうなずく。「昨日の彼の説明では、穴織一族の目的は【穴を開けて、別の世界からこちらにこようとしている化け物を防ぐことである】と言っていました。そして、彼らの能力で【別世界に通じる穴を閉じることができる】と」「えっと……。ちょっと難しくて、よく分からなくなってきたんだけど」穂香が遠慮がちに伝えると、レンは呆れることなく教えてくれた。「ようするに、穴織一族からしたら、人を襲おうとする化け物も、人類の滅亡を防ごうとしている未来人も、【現代に無理やり介入しようとしている】という点で、同じようなものなのでしょう」「なるほど、さすがレン! 確かレンは、未来の科学者だったよね? 頭がいいはずだ、説明が分かりやすい!」「褒めても何も出ませんよ」コホンと咳払いをしたレンの頬は少し赤い。「話を続けますが、穴織くんにその意思がなくとも、彼が結界を張った場所は、未来人からの干渉を受けなくなります。このお守りも同じような効果があるので、身につけている限り、私が
穂香は、レンを涙目で見つめた。「あ、ありがとう! 実は、生徒会室で化け物に襲われそうになったことを思い出しちゃって」「化け物に? どうして、それを先に言わないんですか⁉」「あれ? 言ってなかったっけ?」「聞いてませんよ。先に言ってくれれば……」レンは、途中で口を閉じた。「言ってくれれば何?」穂香がレンの顔を覗き込むと、少し怒っているように見える。「えっ、もしかして、無理やり引きとめたから怒ってる?」「……違います。その、事情を知っていたら、もう少しあなたに対して優しい対応をですね……」ブツブツ言っているレンの肩を、穂香はつかんだ。「大丈夫! レンは、いつだって優しいよ!」「なっ!?」レンは右腕で顔を隠してしまった。隙間から見えている耳や頬が赤くなっている気がしなくもない。「もしかして、照れてる?」レンから返事はない。「レンが照れるなんて珍しいね。ようやく私の可愛さに気がついた? なんてね」冗談を言っていると、レンは顔を隠すのをやめた。その顔は少しも赤くなっていない。「今日の穂香さんは、だいぶ余裕があるみたいなので、研究の続きをしましょうか」「研究?」首をかしげる穂香に、レンはニッコリと作ったような顔で微笑みかける。「ほら、前に言ったでしょう? 10秒間、キスすると……約8千万の菌が互いの口内を移動するという話」ボッと音がなりそうなほど、瞬時に穂香の頬は熱くなった。動揺する穂香の手に、レンがそっとふれる。「ちょ、ちょっと待ってっ!」ゆっくりとレンの顔が近づいてきた。(ほ、本当にキスするの⁉)穂香がギュッと目をつぶると、「フッ」と笑う声が聞こえる。目を開けると、レンが困ったような顔をしていた。「そんなに嫌そうな顔しないでください。無理やりなんてしませんよ。冗談です、冗談」「じょう、だん」急に恥ずかしくなった穂香は、膝を抱えて顔をうずめた。(本当にキスするかと思って驚いたけど……)いつも側にいて、いつでも穂香の味方をしてくれる。口は悪いけど、本当は優しい。そんなレンに、キスされそうになって嫌な気分になるはずがない。(私、たぶん、レンのことが好きなんだ)チラッとレンを見ると、すぐ近くにレンの顔があった。緑色の瞳が不安そうに揺れている。「すみません。ふざけすぎました。あなたを傷つけようとしたわけではなくて―
穂香が穴織に頼んだとたん、風景が変わった。【同日 夜/自宅前】(学校から私の家まで飛ばされたんだね)日が暮れて、辺りは暗くなっている。穂香は、玄関の扉を開いた。「ただいま!」声だけ聞こえる母から「おかえりなさい」と返事がある。「お母さん、友達連れて来たから」「友達って、どうせレンくんでしょう? って、あら?」どうやら母は、穴織を見たようだ。「いらっしゃい。穂香のクラスメイトかしら?」「はい、同じクラスの穴織です。今日は文化祭のことを話し合うために集まりました。遅い時間帯にすみません」穴織は、動揺することなくスラスラと嘘の説明をしている。(穴織くん、すごい! 正体を隠して化け物退治をしているから、こういうことになれているのかも?)感心している穂香の横で、レンが「穂香さんの部屋はこっちですよ」と指をさす。穴織は、母との会話を切り上げると、レンのあとに続いた。「なんで白川さんじゃなくて、レンレンが案内してくれんの?」レンは「まぁ、ここにはよく来ますから」と淡々としている。「え? それって、部屋にくる仲ってこと? 自分ら本当に付き合ってないんやんな?」その言葉は、穂香の胸をえぐった。「そうだよ、付き合ってない……。レンが私のことを好きになって、告白してくれたらこの恋愛ゲームの世界から脱出できるのにね」レンは、穂香から視線を逸らす。「そんなことを言われても、嘘の告白では、意味がないから仕方ないでしょう」「分かってるよ。大丈夫、頑張るから」そんな会話をする二人を見た穴織は、「なんか、こっちはこっちで大変そうやなぁ」と哀れみの目を向ける。穂香は、自室の扉を開いた。「はい、ここが私の部屋だよ。あまり片付いてないけど、どうぞ」すんなりと入ったレンとは違い、穴織は入るのをためらっている。「穴織くん?」「あ、いや。女子の部屋に入るの初めてでちょっと緊張してる」「えっ? 穴織くん、彼女の部屋に入ったことないの?」「ないない。というか、今まで生きてて彼女ができたことが一度もない」「こんなに爽やかイケメンなのに!?」驚く穂香以上に、穴織が驚いた。「えっ、俺って白川さんから見たらイケメンなん!?」「私だけじゃなくて、誰から見てもイケメンだよ! 明るいし誰にでも優しいし、クラスの皆、穴織くんのことが大好きだと思うよ」「そんなん